相続人全員が相続放棄をしたら不動産はどうなるか

文責:所長 弁護士 白方太郎

最終更新日:2024年09月27日

1 相続放棄と管理義務

 相続が発生し相続人となった方が相続放棄を行いたいと考える理由については、被相続人に借金があるから、被相続人と生前交流がなく関わりたくないから、などといったものがありますが、被相続人が山林等の処分困難な不動産を所有していてそれを相続したくないから、という理由でご相談に来られる方も少なからずいらっしゃいます。

 ただ、2023年3月末まで適用されていた民法940条は、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と規定していました。

 そのため、相続人が全員相続放棄をした場合でも、最後に相続放棄をした相続人には、自分の財産と同じ程度の注意をもって不動産を管理する義務が課せられ、この注意を怠り第三者に損害を与えた場合は損害賠償義務を負うおそれがありました。

 そして、この管理義務を免れるためには、家庭裁判所に相続財産管理人(現行法では相続財産清算人に呼称が変更されています)選任の申立てを行う必要がありました(なお、民法)。

 ただ、この申立てには一定の費用がかかりますが、被相続人に預貯金や容易に換価可能な財産(上場株式や投資信託等)がない場合は、裁判所に納める予納金が100万円程度になることもありますので、相続放棄後にも管理義務を負う相続人にとって負担となっていました。

2 改正後の民法940条

 改正後の民法940条は、相続放棄により管理義務を負う相続人の範囲を明確にしました。

 具体的には、改正民法940条は、相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は952条1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない、と規定しています。

 つまり、相続放棄をした場合に管理義務(改正により呼称は保存義務となっています)を負うのは、相続放棄を行った際に事実上、相続財産を事実上支配ないし管理している相続人に限定されることとなりました。

 よって、被相続人が僻地に山林を所有し放置していたようなケースでは、通常、相続人は当該山林を支配ないし管理していませんので、改正後の民法940条が適用される場合は、相続放棄をしても管理義務(保存義務)は負わないことになります。

3 共有の場合の注意点

 民法255条は、共有者の一人が死亡したものの相続人がいないときは(相続人不存在)、死亡した共有者の持分は他の共有者に帰属すると規定しています。

 この条文を読むと、被相続人が不動産の共有持分を有している場合に相続人全員が相続放棄を行えば、当該共有持分は自動的に他の共有者のものになるように読めますが、相続人の不存在が確定するのは相続財産清算人による一連の手続きを経たあとになりますので、相続財産清算人選任の手続を行うまでは民法940条の保存義務が課せられることになります。

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