相続人全員が相続放棄をしたら不動産はどうなるか
1 相続放棄と管理義務
相続が発生し相続人となった方が相続放棄を行いたいと考える理由については、被相続人に借金があるから、被相続人と生前交流がなく関わりたくないから、などといったものがありますが、被相続人が山林等の処分困難な不動産を所有していてそれを相続したくないから、という理由でご相談に来られる方も少なからずいらっしゃいます。
ただ、2023年3月末まで適用されていた民法940条は、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と規定していました。
そのため、相続人が全員相続放棄をした場合でも、最後に相続放棄をした相続人には、自分の財産と同じ程度の注意をもって不動産を管理する義務が課せられ、この注意を怠り第三者に損害を与えた場合は損害賠償義務を負うおそれがありました。
そして、この管理義務を免れるためには、家庭裁判所に相続財産管理人(現行法では相続財産清算人に呼称が変更されています)選任の申立てを行う必要がありました(なお、民法)。
ただ、この申立てには一定の費用がかかりますが、被相続人に預貯金や容易に換価可能な財産(上場株式や投資信託等)がない場合は、裁判所に納める予納金が100万円程度になることもありますので、相続放棄後にも管理義務を負う相続人にとって負担となっていました。
2 改正後の民法940条
改正後の民法940条は、相続放棄により管理義務を負う相続人の範囲を明確にしました。
具体的には、改正民法940条は、相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は952条1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない、と規定しています。
つまり、相続放棄をした場合に管理義務(改正により呼称は保存義務となっています)を負うのは、相続放棄を行った際に事実上、相続財産を事実上支配ないし管理している相続人に限定されることとなりました。
よって、被相続人が僻地に山林を所有し放置していたようなケースでは、通常、相続人は当該山林を支配ないし管理していませんので、改正後の民法940条が適用される場合は、相続放棄をしても管理義務(保存義務)は負わないことになります。
3 共有の場合の注意点
民法255条は、共有者の一人が死亡したものの相続人がいないときは(相続人不存在)、死亡した共有者の持分は他の共有者に帰属すると規定しています。
この条文を読むと、被相続人が不動産の共有持分を有している場合に相続人全員が相続放棄を行えば、当該共有持分は自動的に他の共有者のものになるように読めますが、相続人の不存在が確定するのは相続財産清算人による一連の手続きを経たあとになりますので、相続財産清算人選任の手続を行うまでは民法940条の保存義務が課せられることになります。
お役立ち情報
(目次)
- 相続放棄のやり方
- 相続放棄をしたら裁判所から呼び出しを受けるか
- 相続放棄申述書の書き方
- 相続放棄の理由の書き方
- 相続放棄の必要書類について
- 相続放棄の手続で必要な書類
- 相続放棄における財産調査でお悩みの方へ
- 被相続人の債務の調査方法
- 相続放棄はいつまでできるか
- 相続放棄の取消しはできるか
- 相続放棄をした場合の固定資産税の支払い
- 相続放棄をした際の死亡保険金の扱い
- 相続放棄をする場合の家の片付け
- 相続放棄をしたら、他の相続人への通知は必要か
- 相続放棄の効果とはどのようなものか
- 相続放棄ができないケース
- 相続放棄が受理されないケース
- 相続放棄の却下率とそのパターン
- 被相続人に関する金銭の請求について
- 相続放棄をした場合の生命保険の扱い
- 相続放棄したかどうかを確認する方法
- 生前に相続放棄ができないかお悩みの方へ
- 相続放棄と光熱費
- 相続放棄をした際に代襲相続は発生するか
- 相続財産の処分と相続放棄
- 相続放棄と管理義務
- 相続放棄をする理由について
- 3か月が過ぎてからの相続放棄について
- 相続放棄の注意点
- 遺産分割協議と相続放棄との関係
- 被相続人と賃貸で同居していた場合の相続放棄
- 生活保護を受給している方の相続放棄
- 未成年の方の相続放棄
- 相続放棄をすると故人の賠償金を支払う必要はなくなるか
- 相続人全員が相続放棄をしたら不動産はどうなるか
- 相続放棄をする場合香典はどうしたらよいか
- 相続放棄と限定承認の違い
- 船橋で相続放棄をお考えの方へ
- その他の地域情報
受付時間
平日 9時~21時、土日祝 9時~18時
夜間・土日祝の相談も対応します
(要予約)
所在地
〒260-0045千葉県千葉市中央区
弁天1-15-3
リードシー千葉駅前ビル8F
(千葉弁護士会所属)
0120-41-2403
お役立ちリンク