相続放棄はいつまでできるか

文責:所長 弁護士 白方 太郎

最終更新日:2024年05月24日

1 熟慮期間

 相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に行わなければならないとされています。

 この3か月の期間は、一般に熟慮期間と呼ばれています。民法の条文では、熟慮期間という用語は使われていませんが、判例では使われています。

 相続放棄を行うと、はじめから相続人ではなかったことになるという効果が発生します。

 つまり、相続放棄をすると相続する権利を一切喪失することになりますので、相続放棄をするか否かを「熟慮」する期間として、3か月の期間が設けられているということになります。

 なお、この熟慮期間には、この期間内に被相続人の財産や負債について調査して承認するか放棄するかを決めてください、という意味もあります。

 ここで注意しなければならない点は、熟慮期間の起算日は、「相続の開始の日(被相続人が死亡した日、または先順位相続人が全員相続放棄を完了した日)」ではなく、「自己のために相続の開始があったことを知った日」であるという点です。

 諸々の事情により、被相続人がお亡くなりなられたことや、先順位相続人が全員相続放棄をしたことを後日知ることになるケースも多々あります。

 そのようなケースで、被相続人が死亡した日、または先順位相続人全員が相続放棄を完了した日から既に3か月が経過しているから相続放棄はできない、とするのは、当然ですが不合理です。

 そのため、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内とされています。

では、相続の開始があったことを知った時とは、具体的にどのようなものがあるのかについて、典型的なケースをいくつかご紹介します。

2 被相続人死亡の連絡を受けた日

 被相続人や他の相続人と疎遠で長年連絡も取っていないというようなケースでは、例えば被相続人が入院したという情報が入ってくることもなく、その後被相続人が死亡しても、その事実をすぐに連絡してくれる人がいないためすぐには知り得ないという方もいらっしゃいます。

 このような状況にある方の場合、被相続人が死亡してからある程度の期間が経過した後、何らかの事情により被相続人が死亡した事実を前提とする連絡を受けてはじめて死亡していたことを知ることになります。

 このようなケースで多いのは、被相続人に完済していない借金があったり、税金の滞納があったり、または固定資産税が発生する不動産を所有していたりした場合です。

 被相続人が死亡すると、借金については貸金業者が、税金については税務署や市町村が相続人を調査し、相続人宛に請求書等の書類を送付することになります。

 相続人の調査には時間がかかることもあり、また、固定資産税については相続人のうち一人が納付していると、その相続人による納付がストップするまで他の相続人には連絡がないので、被相続人の死亡後1年以上経ってから死亡の事実を知らされるということもあります。

 このようなケースでは、熟慮期間の3か月は貸金業者や役所から連絡を受けて被相続人死亡の事実を知った日から起算されることになります。

3 先順位相続人が相続放棄をした旨の連絡を受けた日

 被相続人の配偶者は常に相続人となりますが(配偶者相続人)、血族相続人には順位があります。

 血族相続人は、第1順位は子、第2順位は直系尊属(両親、祖父母等)、第3順位は兄弟姉妹です。なお、第2順位内にも順位があり、被相続人と親等の近い者から順に相続人となります。

 例えば、被相続人死亡時に被相続人の直系尊属として母と祖母が存命だった場合、母が相続人となり、母が相続放棄をした場合は、母は相続人ではなくなるため祖母が相続人となります。

 先順位の相続人が存在する限り、後の順位の方は相続人になりません。

 逆に、先順位相続人が全員相続放棄をすると、次順位の方が相続人になります。

 このようなケースで、被相続人に子と兄弟姉妹がいる場合(直系尊属は不存在)、被相続人の子と被相続人の兄弟姉妹(子から見るとおじ、おばになります)がいる場合、被相続人の子とおじ、おばらが連絡を取り合うことのできる間柄でない限り、子が全員相続放棄しても、おじ、おばらはその相続放棄をすぐに知ることはできません。

 そのため、後順位相続人は、被相続人の債権者等から先順位相続人が全員相続放棄をしたことを前提とした請求等を受けるなどすることによって先順位相続人が全員相続放棄をしたことを知った日から3か月間、相続放棄をすることができます。

4 被相続人の債務の存在が判明した日

 被相続人が死亡した当時、被相続人に目ぼしい財産もなく、また負債も判明していなければ、相続の手続き等を行ったり、相続放棄を行ったりすることはまずありません。

 ところが、被相続人の負債については、被相続人の死亡の事実を知った日から3か月以上経過した後に判明することも珍しくはありません。

 例えば、消費者金融等からの借り入れについて、被相続人が3年ほど支払わずに放置していた場合、返済していた頃の返済等の書類(ATM明細等)が残っておらず、業者からの督促状等も頻繁には来なくなるため残っていない場合があります。

 そのため、被相続人の郵便物や財布の中を確認しても借り入れの存在が明らかにならず、後日、貸金業者等から被相続人宛に督促状等が届いてはじめて債務の存在が明らかになることがあります。

 また、被相続人が連帯保証人になっている場合、主債務者が約定通りの返済を続けている限り、連帯保証人に連絡が来ることはまずありません。このような場合、被相続人が死亡してから長期間経過した後に主債務者の返済が滞り、債権者から連帯保証人である被相続人に督促の連絡が来ることによって被相続人に連帯保証債務があったことを初めて知ることがあります。

 このような場合、被相続人に債務があることが明らかになった日を熟慮期間の起算点として、3か月以内に申述すれば相続放棄が受理される可能性があります。

 もっとも、例えば被相続人に比較的高額な預貯金がありそれを遺産分割で分配し費消してしまっているなど、他の相続手続きの進行度合いによっては、法定単純承認となり相続放棄ができなくなることもあるため、注意が必要です。

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