被相続人に関する金銭の請求について

　生命保険金、未支給年金、死亡退職金など、被相続人がお亡くなりになると、受取ることのできるお金が発生することがあります。

　しかし、相続放棄手続きとの関係においては、これらの中に請求したり受け取ったりしてよいものと、そうでないと考えられるものがあるため、注意が必要です。

　法律的にみて構成が複雑なものもあるため、相続放棄を検討されている方にとって、これが最も悩ましいものの一つとなります。

⑴　法定単純承認事由に該当する行為

　法律上、法定単純承認事由に該当する行為を行うと、相続放棄が認められなくなってしまいます。

　法定単純承認事由に該当する行為の一つとして、債権の取り立てが挙げられます。

　債権とは、他人に対して何らかの行為を要求することができる権利であり、金銭の支払いを求める権利はその典型でもあります。

　被相続人が有していた債権について、請求できる権利を行使してお金を受取ることは、通常であれば債権の取り立てに該当します。

　例えば、被相続人が誰かにお金を貸していて、返済を求める権利を有していた場合など、被相続人が亡くなられたことに伴って請求できる金銭が、被相続人の債権に基づくものである場合、それを受け取ると法定単純承認事由に該当してしまう可能性が生じます。

 

⑵　相続人固有の権利も存在する

　専門家でない方にとってはイメージしにくいことではありますが、被相続人が亡くなった際に受取ることができるお金には、大きく分けて被相続人の債権に基づくものと、相続人固有の権利に基づくものがあります。

　相続放棄をする場合、前者の債権に関するお金を受取ることはできません。

　しかし、後者に関する債権であれば、相続財産ではないので、受け取ったとしても法定単純承認事由にはならず、相続放棄に影響しません。

　実務において多く見受けられる代表的なものとしては、相続人が受取人となっている生命保険金、相続人を受取人として定められている死亡退職金・未支給年金、葬儀を主宰する者に支給する旨が条例等で定められている葬儀費用補助金などが挙げられます。

これらは相続人等の固有の権利に基づいて請求できる金銭ですので、受取ることができます。

 

　さらに、相続放棄の実務の現場においては、もっと大きな問題があります。

　それは、実際に相続放棄を検討している方が受取ろうとしている金銭が、本当に受け取ったとしても法定単純承認事由に該当しないものであるか否かを判断することです。

　上述のように、理論上受け取ってよいお金と、そうでないお金を区別することはできます。

　しかし、実際に受け取ってよいか否かを確実に判断するためには、都度書類等を精査し、場合によっては会社や市区町村の窓口に対して問い合わせを行い、請求できる金銭の法的性質を確認しなければなりません。

　これは容易なことではありません。

　相続放棄には、相続の開始を知ったときから３か月という厳格な期限が設けられていることから、相続放棄検討段階では一旦請求を保留し、相続放棄を終えたあとや、または相続放棄の手続きと並行して、受け取り可能な金銭であるかを慎重に検討することが望ましいといえます。

　相続放棄自体は比較的簡易な手続きではありますが、付随する法的な問題は非常に複雑です。

　被相続人に関する金銭について少しでもお悩みでしたら、相続放棄を得意とする弁護士が在籍している当法人まで、お気軽にご相談ください。